2018-09-03

暮らしの中で漆器を手に取るということ 山の民『奥会津の木地師』上映会+うるしトーク

ずらっと並んだ漆器の美しさに思わず惚れ惚れ。トップの画像は、8/31に行った「山の民『奥会津の木地師』上映会+うるしトーク」イベントの準備風景です。

平日にも関わらず、ほぼ満席となるほどのお客様にお越しいただき、素敵な夜を過ごすことができました。お越しいただいたご参加の皆様、イベント企画段階からご協力いただいた「漆とロック株式会社」の貝沼航さん、本当にどうもありがとうございました。

今回のイベントでは、まず漆とロック株式会社さんが企画販売する漆器「めぐる」(*後述)を実際に使わせていただくところからはじまりました。

漆器に合う食事ということで、一汁一菜のお料理をカフェスローキッチンチームに作ってもらい、それぞれ手に取ってお召し上がりいただくことにしました。

夜の会場の暗さが、漆器と料理の美しさをさらにひき立ててくれているように感じましたが、よく考えるとそれもそのはず。今でさえ、スイッチ一つで夜も明るく過ごすことが出来ますが、かつては薄暗いなかで夜を過ごしていました。今回くらいの会場の明るさこそが、本来の漆器の居場所なのかもしれません。

漆器を手に取り美味しいご飯をいただきながら、まず導入として漆器の一生を描いたスライド絵本の朗読を貝沼さんにしていただきました。

漆器が出来るまでの工程と、そのお手入れや扱い方などをかわいいイラストとともに教えていただきました。(なんとこのスライド絵本は今回が初お披露目だったのだとか)

漆器のあらましを簡単に教えていただいたら、続いて民族文化映像研究所さんの『奥会津の木地師』の上映開始。この映像が、とにかく本当に凄かった。

みちのくの山間部にある奥会津地方で暮らしていた木地師(きじし)さんの様子を再現した記録映像なのですが、かつての木地師さんは定住をせずに移動性の暮らしをしていたため、なんと良い場所を探して掘っ建て小屋を作るところから、その仕事が始まるのだといいます。

水を引いてくることが出来る場所、近くに多く笹が生えている場所などを探し、近くの木を切ってきて組み合わせて掘っ建て小屋を作る。壁と屋根は笹を葺くことであっという間にそこには立派な「木地屋敷」が出来上がります。

ここまででもとても見ごたえがあるのですが、ここからがようやく木地師さんのお仕事になります。

ブナの大木を斧一本で倒し、ヨキを使って椀の形を作っていく様子に木地師さんの逞しさを感じ、両の素足ではさんだ椀に「ちょうな」という工具を振り下ろして中を削っていく様子には、足まで切ってしまわないかソワソワしながら、その身体感覚・技術に感嘆させられました。電気だってもちろんありませんので、手引きのろくろを回しながら形を整えていきます。

これら映像の全てが、かつて日本で行われていたことなのかと思うと、素直に感動の気持ちを覚えるとともに、本当に日本文化というのは急速に変化してきたのだなと思わずにいられませんでした。

古い映像なのに(いや、だからこそ)非常に見ごたえがある場面が次々に登場してあっという間に過ぎた50分でした。

上映後に、貝沼さんから本物の「ちょうな」を見させていただきました。左手前に置いてある荒い椀を両の素足で挟み、そこにこの「ちょうな」を振り下ろして中を削っていくのだといいます。想像しただけで、足まで切ってしまわないのだろうかと冷や汗が出てきます。

道具も自分たちで作ったのだそうで、都合の良い形に枝分かれしている丈夫な木を探すところから道具作りは始まるのだといいます。

というような形で、後半はご参加いただいた皆様の感想や質問を伺いながら、貝沼さんによる「うるしトーク」!

「昔の人たちは足の指が長い(いまよりよほど器用なのでそう見える)」

「木地師さんが小屋を作る際、棟梁のようなリーダーがいないことが印象的だった」

などの感想のほかに、日本からブナが少なくなっている理由や、漆器が出来るまでの行程のこと、うるしのことなどなど、様々な質問と掛け合いにより、興味深い話をたくさん伺うことが出来ました。椀と碗のちがいの話も興味深かったです。

最後に、少し真面目な話として貝沼さんが見せてくれたのがこのスライド。

高度経済成長期までは右肩上がりだった食器の生産額が、バブル崩壊後から今にかけて急激に落ち込んでいるのがグラフからよく分かります。これに関しては食器に関わらず日本産業全体の動向なので、おかしな話ではないのですが、注目なのはその内訳です。

最盛期には「木と漆による本物の漆器」の方が「プラスチックに化学塗装の器」よりもよくつかわれていたのに対して、今は「プラスチックに化学塗装の器」の方が使われる割合が多くなっているとのこと。

消費が減ると、作り手さんも減っていき、それに伴いうるしの木を管理する人出が足りなくなったり、道具を作れる人が減ったりと、漆器を作る技術全体が衰退していってしまうそうです。

日本に存在する素晴らしい文化に、これからも触れていられるかどうかは、じつは私の選択にゆだねられているのだということですね。

とはいっても、なかなか遠い存在になってしまった漆器を、もう一度生活の近くに取り戻すのはたやすいことではありません。

そこで貝沼さんが企画販売しているのが、今回使わせていただいた漆器「めぐる」。

視覚障がい者の案内により暗闇のなかで過ごす「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンドさん達が、視覚に頼らない繊細な手先や唇の感覚を使って追及した形を、会津の職人さんが実際の形に仕上げたもので、はじめて漆器を買う人に、間違いのないものを届けたいという思いで作られたといいます。

売り上げの一部は漆の植栽活動へ寄付され、その漆が木へと育ったころには、購入した漆器の塗り直しなどに使うことが出来るようになります。

一度買って終わりではなく、世代をこえて「めぐる」漆器。そんな思いが込められているそうです。

書きたいことは山ほどありますが、それはまた次回同じような機会を作ることが出来たときに皆さんとお話をすることが出来れば幸いです。

自らの暮らしの中で、漆器を選択するということ。それが日々を豊かにし、日本文化を守ることにも繋がり、さらに塗り直しや金継ぎなどをして使っていけば、漆器を通して世代をこえて繋がることまで可能になるということがよく分かった、とても素晴らしいイベントでした。

さっそく私の家でも、漆器をちゃんと使ってみようと思います。今回お越しいただいた皆様、どんな質問にも優しくお答えいただいた貝沼さん、本当にどうもありがとうございました。

また漆器を通してお会いいたしましょう!

 

▷漆とロック株式会社 https://www.urushirocks.com/

▷漆器めぐる http://meguru-urushi.com/


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